「都藝泥布」 第1号 京都地名研究会の通信誌の第1号 (読み「つぎねふ」は「山城」の枕詞) |
設立総会開かる
4月28日(日)、京都駅前のキャンパスプラザ京都において、「京都地名研究会」の設立総会が行われた。昨年の十二月以来、有志による数度の準備会議を経て、会の設立にまでこぎつけたものである。参加者は予想を上回り、受付に記名された数としては126名(内訳は会員85名、聴講41名)であったが、170名定員の会場がほぼ満員になるほどの盛況であった。
当日はまず、金坂清則京都大学大学院教授の記念講演が「地名・言葉の成立探求の意義」と題して行われ、地名の研究はこれまで語彙史の主たる研究対象から外されてきたものの、地名は歴史を背負っており、その成立を明らかにすることのもつ意義が説かれた。具体例として広域の「地域」名の成立が挙げられ、「瀬戸内」の概念が、尾道以西の限られた範囲のもので、しかも江戸時代中期以降に成立したものであるとする最近の説に対する疑義が提出された。それはすでに中世には成立しており、それも現在の「瀬戸内」の名称がカバーする広域のものであったという。この講演の記録については本研究会の機関紙となる『会誌』に全文を掲載する予定である。
ついで、総会に移り、会則、役員、事業計画、そして予算についての提案がなされ、それぞれ承認された。吉田金彦代表理事のもとで、さしあたり九人の常任理事の手によって本研究会は運営され、今年度につい
例会のご案内 第1回7月28日(日)午後2時〜5時 京都キャンパスプラザ2階ホール @ 古川章(山城資料館友の会) 「京田辺の地名蒐集」 A 小寺慶昭(龍谷大学) 「綱敷天満宮と地名分布」 第2回10月20日(日) 京都キャンパスプラザ 第3回12月8日(日) 宮津市・歴史の館 第4回平成15年1月26日(日) 龍谷大学大宮学舎 (なお第2回以降の例会発表者を募集しています。テーマは地名に関するもので、自由です。希望者は事務局までお問い合わせください。) 【事務局】〒617-0002京都府向日市寺戸町二枚田12−46綱本逸雄方 пFax075-933-5667 研究会会員募集中!! 事務局までお問い合わせを |
ては4回の例会を一般公開の形式で行うことになる。
その後、吉田金彦代表理事の挨拶および
基調講演が行われた。「京・地名の魅力」と題して、みやびやかな王朝以前をはるかさかのぼって、京都の地名の歴史を掘り起こす可能性が示された。「烏丸」は「河原洲+マウル(村の朝鮮語)」であり、上賀茂神社の残る神事としての「烏相撲」も「河原洲」の相撲を意味している。「押小路」の「オシ」は「イソ(磯)」であり、「姉小路」の「アネ」もアイヌ語で小川、さらに「洞院」の「トウ」もアイヌ語で水流を意味する。京都盆地はかつて随所に水が沸き出で、縦横に小川の流れる湿地帯であった。淀川をさかのぼって、この湿地帯を見出し、住み着いて、開発した人々の空間認識が地名研究から理解されることになる。
その後、来賓挨拶があり、日本地名研究所所長の谷川健一氏から「地名研究の心」と題してお話があり、自己の長年の地名研究の足取りから地名研究の意義を説かれ、また中部地方地名研究会会長の服部真六氏から「美濃の国から」と題して、友好団体としてともに協力し合って発展していきたいという旨の挨拶があった。
当日会場に来られなかった上田正昭京都大学名誉教授および中西進帝塚山学院学院長からも、京都で新たに発足する本研究会に対しての期待と激励をこめたメッセージが寄せられ、さらには山田京都府知事の電報が読み上げられて、会場の雰囲気をさらに盛り上げた。
設立総会の終了後、新阪急ホテルに移って、懇親会が行われた。日本地名学研究所所長池田末則氏の差し入れの銘酒によって乾杯をして、会の発足を祝し、また今後の会の発展を祈念した後、和気藹々とした雰囲気の中で会員相互の親睦が深められた。
京都地名研究会発足にあたって
代表理事 吉田金彦
新緑の良い季節を迎え、皆様、益々ご健勝の程、お喜び申し上げます。
本日はここに、京都地名研究会発足に当たり、御用も多々御ありの中を、態々ご来会賜りまして、誠に有難うございます。各地の先輩各位や、府下内外の多くの有志のご声援によりまして、漸く、会の出発できます事は、この上ない喜びであり、幸せな事として、同慶の念で一杯であります。
京都地名研究会なるものは、実は、今から十五年前の昭和六十二年に一度、設立された事がありました。その提唱者は京都市の郷土史家松本利治翁で、研究会もその六月に発足したのでしたが、氏は大作「京都市町名変遷史」の研究に取り組んでおられ、暫くの研究会も、氏の逝去と共に続かなくなりました。私共の非力から、氏の後を継続できなかった事は、とても残念な事でしたが、しかし十五年後の今日、振り返ってみて、その間が失われた空しい時間だったとも、思われません。開設五年の語源研究会で忙しくしていた私の研究内容は、その当時結構、地名がテーマになってもおりました。
昨年十月に川崎市で全国地名研究者大会、同じく十一月に京都で日本語語源研究会、共に創立二十周年を迎えて、それぞれに記念の大会が開催されました。同時スタート兄弟学会のような関係でもありましたから、全国地名を主宰なさる民俗学の谷川健一所長を迎えての語源大会は、大いに盛り上がりました。その折に谷川氏の強い要請がありまして、矢張り、京都にも地名の学会を、と言う声が燃え上がったしだいです。京都地名研究会の名が、ここに再び復活することになったわけで、思えば、谷川氏の激励の賜物だったと、厚く感謝しております。
語源研究者の中にも沢山の地名研究者が居られる。京都には大学人も多いし、歴史や地理の話題には事欠かない。京都府下一円を中心に、及ぶところ遍く広く、府市町村民挙って集まり、地名のことを勉強しようと言う事になりました。
地名は、其処に人が住んでいます。人が住み、暮らし、生産したり、遊んだり、そして死んでゆく所です。そんな大地に名付けして、地名を日常茶飯事に使っています。ですから、地名の主人公は住民です。私共は、すっかり慣れっこになって、ややもすると無限の恩恵を受けている大地を忘れがちな様に、此れ無しに暮らせない必需の地名の大切さを、忘れていませんか。主人公が呼んだ今までの名前を、いい加減にしていませんか、など反省しますと、地名の研究はとても深く、根本的に重要な事だ、そして同時に厄介な事だ、と考えられてきます。
地名は大地に刻まれた歴史だ、とよく言われます。それ程重要なのに、スローガンほど地名学が、現代日本の科学の中で、確固たる地歩を占めてはいません。重要性は認知していても、学問体系に沿わない為か、これを正面から取り上げる人が、きわめて少ないのです。地名研究は従来、地理学や歴史学、その他諸学の関連的研究として、また熱心な郷土史家達の努力によって、行われてきました。その成果は、今日、大きな地名辞典として幾つか出来ていますが、今の日本の大学に、地名大学や、地名学部・地名学科など聞いた事がありません。国際交流とか、学際研究とか、総合研究とか、色々に叫ばれてはいますものの、地名に着眼し、そこを基点に発信する着想は、まだ無いようです。
ただ嬉しい事は、近年、その閉塞状態を打開しようとして、環境学とか、地域学とか、そういう名で呼ばれる提唱が、あちこちで起こってきた事です。もう従来の学問の方法論では駄目だ、と言う事に気づいたのでありましょう。そして、私の立場から、口幅ったい事を言わせていただけるなら、更にもう一歩踏み込んで、それら環境学なり、地域学なりに、地名という言葉の視点を重視して、それを是非加えて欲しいと言う事です。言葉の視点から、歴史を見る、地理を見る、と言う事で、歴史や地理の真相に迫れる事が、案外に多いのではないでしょうか。専門の歴史や地理学者が、地名については誠に幼稚な意見であったり、誤解をしている例が少なくないのを見るに付け、遺憾に思うことがしばしばです。此れの責任は、現時点であえて言えば、国語学や言語学に於ける地名分野の研究の欠落にありと言えましょう。
以上のような反省に立って、諸学手を繋いで、同じ目線で等距離に、地名を対象として調査・研究し、その過程と成果を公表・普及させ、学習・教育にも応用してゆきたいと、考えます。
地名研究は、まず自分の足元から。そして、歩いていく先々の地名まで。懐かしい故郷の地名、旅先で見つけた珍しい地名、変わった名前や読めない漢字の地名など、ぐるりにある地名の謎に、挑戦してみましょう。そこから、きっと新しい知識が開け、ゆとりのある心が育まれていくと、思います。
地名は、寺社が文化財であるのと同じに、貴重な文化財です。日本の地名は、日本人の心のこもった<心的文化財>であります。大小に関わらず、有名無名に関わらず、どこの地名もみな文化遺産です。ですから、これの取り扱いには良く勉強して、取り掛かりましょう。その為にも、データを保存し活用する施設、地名資料館と言うようなものが、京都府には当然、必要になりましょう。
京都における地名研究は、ソフト面でもハード面でも、あらゆる分野にわたる重要な意義がありますが、全てこれからです。意義有る本日の発会に、ご来駕賜りました来賓、メッセージを頂きました各位、ご多用中をお集まりいただいた会場の皆様に、篤く感謝申し上げ、今後とも宜しくお願い申し上げます。
発足に至るまで
綱本逸雄事務局長
当会発足のきっかけは、昨年11月に開かれた「日本語語源研究会20周年記念大会」、谷川健一日本地名研究所所長が、「京都にも地名研究会設立を」と呼びかけられたからでした。当日会場に設けられた設立賛同署名用紙には、30名近くが署名。
その直後に、吉田金彦、綱本逸雄、角菊彦3人が地名研究会設立の打ち合わせを吉田宅で行い、設立趣意書、会則案、役員案を検討、第1回準備会を昨年12月、キャンパスプラザ京都で開催しました。賛同者のうち26名が参加、会則案の討議、世話役(常任理事)を内定しました。
以後、今年3月30日まで、計3回の準備会、準備会前の常任理事(内定)会を開催。準備会出席者はほぼ理事に内定。4月28日の設立総会(キャンパスプラザ京都)へ向けての準備を、常任理事が総務、会計、広報、編集を分担し進めてきました。
準備会、常任理事会でとくに議論が集中したのは会則案の中の名称、目的、事業内容でした。名称を「京都地名研究会」と「京都」を冠すると、「京都だけに研究・調査・発表を限定するのか」、「いや無理だ」、「国の内外も入れるべき」、「国内だけでいいのでは」と目的、事業内容も関わって、議論が沸騰。結局、千年以上の歴史都市・京都を中心に幅広く地名を調査・研究し伝統文化財としての地名を普及、その保存・継承のため地名資料館設立を目指すという、全国でもユニークだと自負できる会則ができあがりました。また、顧問に上田正昭京大名誉教授をはじめ著名な人士に就任していただいたことは、ひとえに吉田代表の長年にわたる地名研究活動の実績が反映されています。
当初、予測もつかなかった会員数も、4月5日付「京都新聞」、同13日付「リビング京都」で報道されて以来、事務局へ入会申し込みが相次ぎました。早くから立ち上げたホームページへは会員非会員問わず積極的な投稿が続いています。自治体へのあいさつ回りでは、とくに各教育委員会では、今年4月から学校が週5日制になり、生徒の土曜日の過ごし方について懸案事項のようで、当会事業目的の「地域の青少年・学徒を対象に地名に関する啓蒙・セミナーを開き、教育界と連携する」という点は、どこでも好意を持って受け止められました。
設立総会は、開会30分前から府内外の参加者が大勢つめかけ、会場はほぼ満席。KBSも取材し、地名への関心と研究会への期待の大きさを示しました。当日参加者は126人、入会者は45名、5月20日現在の会員は145人(うち賛助会員18人、家族会員7人)です。
京都地名研究会役員
【顧問】池田末則・上田正昭・梅原猛・沢潔・谷川健一・中西進・森浩一
【代表理事】吉田金彦
【理事】池田碩・井上満郎・上谷正男・片平博文・金坂清則・加畑昭・芝野康之・杉本利一・高橋聡子・田上源・谷口隆捷・寺田敬・西尾寿一・藤田昌志・古川章・前田徹・山口富蔵
【常任理事】池田哲郎・石田天佑・糸井通浩・井上千恵子・梅山秀幸・小泉芳孝・小林淳夫・角菊彦・綱本逸雄
友好団体について
京都地名研究会は以下の研究会と友好関係にあって、お互いに情報交換をしながら、研究を深めて行きたいと考えています。
日本地名研究所
〒213-0001川崎市高津区溝口1−6−10川崎生活文化会館4F 4−812-1106
中部地名研究会
〒503-2123岐阜県不破郡垂井町栗原1887野部研二方 0584−22−0561
紀南地名と風土研究会
〒646-0003田辺市中万呂207桑原康宏方 0739−22−0483
越後佐渡を語る会
〒958-0836村上市羽黒口1−9長谷川勲方 0254−52−3851
宮城県地名研究会
〒989-4103宮城県志田郡鹿島台町平渡長根 太宰幸子方 0229−56−9459
播磨地名研究会
〒670-0971姫路市西延末 姫路文化会館内播磨学研究所
社叢学会
〒540-0012大阪市中央区谷町2−2−22
NSビル内 06−4790−0155
会員新刊紹介
永田良茂著『古代人の心で地名を読む』
編集後記
京都地名研究会の通信誌の第1号をお送りします。誌名の「つぎねふ」は設立総会時のアンケートにより、新井寛氏の案を採用させていただきました。いうまでもなく、「山城」の枕詞ですが、文字は『古事記』により、吉田金彦代表理事の揮毫です。また可愛い猫のイラストは会員の石田すず子さんにいただきました。「都芸泥布」はさらに充実したものにしたいと思います。情報および記事をどしどしお寄せください。(梅山)
広報係 小泉芳孝に、お寄せ下さい。
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