「都藝泥布」 第19号 京都地名研究会の通信誌の第19号
 
 (読み「つぎねふ」は「山城」の枕詞)                    

     

(Tsuginefu)  京都地名研究会通信19 

第17回京都地名フォーラム報告

 11月26日(日)、京丹後市アグリセンター大宮において、第17回京都地名フォーラムを行った。
3年ぶり、3度目の北丹地域での開催であったが、今回は、京丹後市教育委員会に後援いただき、ふるさと丹後歴史研究会、網野町郷土文化保存会、そして久美浜町郷土研究会などとの共催の形で行われた。まず、企画の段階からご尽力いただいた水野孝典京丹後市教育委員会次長および吉田金彦京都地名研究会会長の挨拶の後、
橋本勝行氏「地名から見る   (水野孝典氏)
中世久美庄の様相」、 伊藤太氏
「雪舟『天橋立図』に中世の地名を読む」、糸井通浩氏
「丹後の古代地名―音韻<つ>と<す>をめぐって」などの発表が行われた。
秋から冬へ移り変わるこの時期の丹後地域特有の氷雨に見舞われ、あいにくの気候であったが、多数の参加者があり、発表者の話に熱心に聞き入った。

城下町としての久美浜      橋本勝行氏

橋本氏は、中世の久美庄を、@12世紀末から15世紀前半の長講堂領時代、A15世紀中葉から後半の、丹後守護領および常徳院領であり、『丹後国惣田数帳』に記載さ (Tsuginefu)

    京都地名研究会通信19号   平成19年1月1日

れている時代
B伊賀氏が奉行した「丹後国御檀家帳」に記載された時代、
C1582年から1600年の松井康之の松倉入城時代、の四つの時期に分けて論じた。
『一遍上人絵巻』   (橋本勝行氏)
に「久美の浜」での踊念仏の様が描かれるように13世紀末には人々の集う殷賑の地であったが、時代の変遷を経て、本願寺が力をもつようになって、本願寺文書に久美浜の所々の地名が顔をだすようになる。「引土」「宮本」「橘」「如意寺」「土居」など、それら史料に現われる地名と現在の場所の比定を行い、集落の成り立ちについて、橋本氏は論じた。16世紀の半ばには現在の大字単位の集落が見える、つまり「村」が成立していると、橋本氏はいう。さらには、織豊政権下に細川家の重臣であった松井康之が建設した城下町の名残を地名によって指摘、また、久美浜湾を中心にした水運地名や市場地名を通して、中世のこの地域の人々の生活ぶりをまでしのばせてくれた。本願寺跡が「十楽」という地名になっていることから、寺の境内で商取引が行われたというように、最近の中世史の成果を踏まえた発表は有意義であった。

雪舟「天橋立図」を地名資料として    伊藤太氏

 伊藤氏によれば、丹後の古代・中世史の研究は、近世の偽書である『丹後風土記残欠』や『一色軍記』の影響を強く受けたために遅れてしまったのだという。『宮津市史』の完結に   (伊藤太氏)
よって、ようやく真正な資料による歴史研究のスタートラインに立つことができたが、雪舟の「天橋立図」も、中世の丹後府中の研究資料として欠かせないものだと、伊藤氏はいう。絵画資料を歴史研究に使用する方法論を提示しながら、中世の丹後府中の有様について、伊藤氏は論じた。
 「天橋立図」には遥か沖合いにある冠島・沓島が描かれている。それについては、籠神社の祭神が降臨したのが冠島・沓島であったから、籠神社に奉納するために雪舟が描いた「天橋立図」には、構図を無視してまでも、冠島・沓島を描く必要があったとする、学会で評判になった仮説があった。しかし、説得力をもつかに見える仮説も、実は偽書の『丹後風土記残欠』によりかかっており、「天橋立図」が籠神社に納められたものだというのも誤りである。伊藤氏は郷土史家の中島利雄氏の、栗田半島に視点をおいて反転させ、切り詰めただけだという説を採って説明し、さらに、雪舟の描いた「通堂」の意味を、他の地域の橋とお堂とを兼ねた構築物との比較で論じた。

 音韻「つ」と「す」は変化する     糸井通浩氏

 峰山町に「久次(ひさつぎ)岳」があり、「咋石岳」とも記され、さらに「口周枳(くすき)」とも表記される。大宮町に「周枳(すき)」があり、大嘗会の「主基(すき)」国から来たものと思われるが、「主基」の語源は「次(つぎ)」の意味だと考えられる。また大宮町には「久住(くすみ)」があり、「皇住」とも書くが、式内社として「木積(こづみ)神社」が存在している。天武紀に、「次、此云須岐」という注釈があって、「すき」は「つぎ」であって、副次の意味であるらしい。糸井氏は地名における「つ」と「す」の音韻の変化について、近江国浅井郡の湯次(ゆすぎ)、出雲国大原郡の木次(きすぎ)、木簡に次評と記される隠岐国の周吉郡、また備中国後月郡の足次(安之幾・安須岐)など、多くの例を挙げて説明された。備後国(広島県)の「三次(みよし)」は、もと「三次(みすぎ)」だったものが、「三好」と表記されることもあって、「みすき」から「みよし」と呼ばれるようになったのだという。古代の「す」の発音が[tsu]であり、それは現代では、むしろ「つ」であるという事情があると、糸井氏は説明を加えた。国語学の知識
が地名研究に不可欠であることの例となる。学生時代に木次線に乗った、その時、疑問に思ったことを、40数年後に話すのだと、思い出話をまじえて話された。 (糸井通浩氏)

第18回京都地名フォーラム

 日時:2007年1月14日(日)
      午後2時〜5時
 場所:同志社女子大学今出川校舎  ジェームス館

【発表】
@ 久保田孝夫氏:「『土佐日記』に見る淀川の地名から」
A 石田天祐氏:「神功皇后伝承と南山城の地名・神社」
B 中島正氏氏:棚倉の地名とその広がりについて
【会員出版・表彰記念パーティ】
      午後5時半〜
 会場:同志社大学寒梅館1F
   アマーク ド パラディ
 会費:4000円(非会員参加可)
(会員の今年度の出版・表彰記念パーティ。今後、相互激励のために毎年1月のフォーラムで実施)

      (会場付近地図)
【久保田孝夫氏発表要旨】
『土佐日記』は土佐の国司の任を終えた作者紀貫之が、都への帰路を語る旅日記を女性に仮託して記したものである。室戸岬を通り、鳴門から淡路島の南を通って多奈川から住吉を経て淀川河口に至り、川を遡行して都へと入る。難渋した旅であったようで、早く我が家のある都へ帰りたい気持ちはあちこちに吐露されている。にもかかわらず、都の入口である山崎(現大山崎町)で5日間も留まるのである。半日もあれば自邸に辿り着けるのにと少々不思議な感がする。その5日間の理由を「山崎」という地から考えてみたい。あわせて、淀川の河口「川尻」から山崎までに見える地名についてもいささか触れることにする。
(久保田氏プロフィール)1950年、北海道旭川市生まれ。同志社大学大学院修了。平安朝から鎌倉にかけての和歌・物語文学を中心に研究。現在、大阪成蹊短期大学教授。
【石田天祐氏発表要旨】
奈良市北部と南山城には神功皇后にまつわる伝承や地名が多い。オキナガタラシヒメ(息長帯姫)と呼ばれた神功皇后は架空の人物であるが、架空の女帝がどのような経緯で造作されたか、文献(記紀)と神社、地名を通して考えてみたい。特に日本書紀の推古天皇の8年と31年の記事に注目し、その歴史的な行跡の虚実に論点を置く。
(石田氏プロフィール)1943年、熱海市生まれ。1968年、京都大学文学部言語学修士課程修了。日本ペンクラブおよび日本文芸家協会会員。(株)ギルガメシュ代表取締役会長。主な著作に『忽然の人』『マルドゥクの怒り』『イザナミの言語学』『夢の咲耶姫』など。
【中島正氏氏発表要旨】
平成18年に史跡「大安寺旧境内」の府指定となった「石橋瓦窯跡」(京都府綴喜郡井手町大字井手小字石橋所在)は、平城遷都により藤原京から移された大官大寺(後の大安寺)の創建瓦を生産した窯跡群で、木津川の支流・玉川北岸の段丘斜面に立地する。しかも、この窯跡群は、天平19年(747)に成立した「大安寺伽藍縁起并流記資材帳」に記載のある「棚倉瓦屋」の跡と考えられ、文献資料記載の瓦生産組織が考古学的調査により確認できた稀有な例である。
 ところで、この「棚倉」の地名は、古く『万葉集』(巻19)に「棚倉野」として登場し、現在も隣町の相楽郡山城町にJR奈良線棚倉駅、町立棚倉小学校、棚倉郵便局としてその呼び名を残しているが、二町にまたがるほどの広域の範囲を指す地名なのだろうか。1月14日の報告では、「棚倉瓦屋」の考古学的な調査成果を踏まえながら、棚倉の地名について考えてみたい。
(中島氏プロフィール)1959年、新潟県上越市生まれ。明治大学文学部卒業。史学地理学科・考古学専攻。現在、山城町教育委員会事務局 教育次長補佐兼生涯学習係長。花園大学非常勤講師(「仏教考古学」を講義)「椿井大塚山古墳の築造過程」「山城の古墳と寺院」「日本霊異記と山寺」などの論文の他に多くの発掘調査に従事して、その報告書が多数ある。
※ フォーラムの終了後、会員の出版・表彰記念パーティを行いますが、会員の出版・表彰は次のとおりです。
【出版】
・ 京都地名研究会編『京都の地名検証2』(勉誠出版 2007・1)
・ 吉田金彦編『日本語の語源を学ぶ人のために』(世界思想社 2006・12)
・ 笹川博司『高光集と多武峰少将物語―本文・注釈・研究』(風間書房 2006・11)
・ 糸井通浩代表『京都学の企て』(勉誠出版 2006・5)
・ 梅山秀幸訳『於于野譚』(作品社 2006・8)
・ 高橋聰子『舞鶴の歴史―まほろば逍遥』(私家版 2006・8)
・ 柴田昭彦『旗振り山』(ナカニシヤ出版 2006・5)
以下は予定
・ 池田末則監修『大阪の地名の謎』(ジアース社 2007・1)
・ 『奈良の地名由来事典』(東京堂出版 2007・春)
【表彰】
・ 金坂清則氏:10月、王立スコットランド地理学協会名誉会員授与。イザベラ・バードの旅と著作に関する研究による。『中国奥地紀行』『イザベラ・バード 極東の旅』(いずれも東洋文庫)。
・ 山嵜泰正氏:11月、宇治市主催、第16回紫式部市民文化賞受賞。小説『三木パウロ・安土セミナリオ第1期生』

第6回京都地名シンポジウム
 龍谷大学大宮学舎清和館3階大ホール
※ 理事会
2007年4月22日(日)
       午後2時~5時
※  総会
※ 講演会「最新科学と古代地名」(仮)
@ 長尾真・元京都大学総長・現情報通信研究機構理事長
   「コンピューターと地名」
A 井上満郎・京都産業大学教授
   「京都における渡来人とその地名」
B 吉田金彦・京都地名研究会会長
   「小塩山再発見」

【近刊紹介】

京都地名研究会編『京都の地名 検証2―風土・歴史・文化をよむ―』
定価3150円(消費税込み)、四六版・上製・400頁

『京都の地名 検証2』は収録項目101項目、執筆者35人で、京都の地名に隠された魅力を探る知的発見の書となっている。第1集に続いて従来の地名類書より、興味深く、緻密で詳細、最新の地名研究の成果を集成してきたと自負している。
今回取り上げた主な地名を挙げると、池田末則顧問の「天ヶ瀬」「物集女」はじめ、「アラカルト突抜地名」「アラカルト辻子地名」「アラカルト風呂屋町地名」「町通(新町通)」「長岡」「蜂岡」「芋峠」「久次岳」「千丈ケ岳」「和泉式部町」「橋本」「少将井町」「俊成町」「女布」「比叡山」「アハの辻」「一条戻橋」…と力作ぞろいである。
地名研究のレベルを高めた「突抜」「辻子」は、故足利健亮の先駆的業績を金坂清則副会長(京都大学大学院教授)が継承し、さらに多くの突抜、辻子地名を収集、高橋康夫氏の「突抜の形成は秀吉の市中町割の改造に伴うもの」(『京都中世都市史研究』ほか)などの説に対し「突抜は秀吉とは無関係でそれ以後の場当たり的再開発によって開かれた」と批判し、足利説を補強して論を深めている。「俊成町」は、鎌倉歌人・藤原俊成邸が五条京極にあったとする従来の説に対して、地元の執筆者が同町の由来は町内の俊成社が元邸跡だからだと、訂正を求めている。2005年3月に、第2集の原稿募集を開始してから、丸2年がかりで昨年末にやっと責了できた。編集委員会には、新に金坂清則副会長、天野太郎・柿木重宣常任理事らが加わり充実した。(綱本)

『日本語の語源を学ぶ人のために』(世界思想社)2006年12月20日 定価2400円+税
 本著は、日本語の語源に興味を持つ人のために執筆された本格的な「語源学」の著書である。日本語語源研究会代表吉田金彦氏のもと、総勢31名の豪華な執筆人が、自らの専門分野の立場から「語源学」という学問をわかりやすく説いている。執筆陣には、言語学や国語学(日本語学)の第一人者だけでなく、哲学、文学、歴史学などの隣接分野を専門とする研究者も加わっている。各人が、語源に関する自らの研究成果を余すところなく展開していることも魅力の一つといえよう。特に、国語学界の泰斗大野晋氏が、本著において、日本語とタミル語の同系を唱え、持説を強く主張していることも注目に値するであろう。
 なお、本書の構成であるが、「語源とは何か」「語源学の方法」「語源学の分野と課題」「日本語と周辺諸言語との比較」「語源学の諸問題」「語源学史と語源研究文献」など、実に多彩なトピックが配されており、語源に関心のある方なら、どの章から読み進んで頂いても構わないように工夫がされている。一つ一つの章が独立した読みものとして成り立ち、各章には、語源に関わる興味深いコラムが掲載されている。
 「語源学」をこれから本格的に学びたい人にとって、必読の書となることはいうまでもないが、語源に少しでも関心がある人にも、その知的好奇心を満足させるに充分な内容であるといえよう。
 ことばに関心のある読者の方には、ぜひ本書を一読してもらいたい。きっと、魅力的な「語源学」の世界が開かれ、ことばの源(みなもと)を知る楽しさへと誘われることであろう。(文責:柿木重宣)
『日本地名分類法2006』
 長野県地名研究所の滝澤主税氏が尽力して昨年発刊した『日本地名分類法2005』に、北海道と沖縄を増補した版が新に発刊される。定価36000円、予約申し込み価格28800円(荷造り運賃+1000円)。予約申し込み者はファックスで、長野県地名研究所 0268−88−0171
まで。

【受贈本紹介】
・『紀南の地名』(2006年10月 紀南地名と風土研究会発行 105ページ、非売品)
南紀州の地名52ヶ所を選んで写真付きで詳しく論じたもの。
・『地名 24』(2006年11月 宮城県地名研究会)

金坂氏、スコットランド地理学協会名誉会員に
 本会副会長金坂清則氏は、氏がこの15年以上にわたって続けてこられたイザベラ・バードに関する研究と、2005年10月28日から11月27日まで国立スコットランド図書館大展示ホールで開催された氏の写真展In the footsteps of Isabella Bird: Adventures in twin time travelが評価され、このたび王立スコットランド地理学協会The Royal Scottish Geographical Societyの名誉会員に推挙されました。同協会は1884年に設立され、約2000名の会員を擁し、エリザベス女王をパトロンとして地理学や探検・旅、地理教育に関わる活動を展開している協会で、これまでの名誉会員の中にはP,ヴィダル・ドゥ・ラ・ブランシュやA、ペンクもいます。バードも1890年にこの栄誉を受けました。『中国奥地紀行』(全2巻 平凡社 2002)に続いて昨年刊行された編訳書『イザベラ・バード 極東の旅』(全2巻 平凡社 2005)には英国人でも知らない諸事実が盛り込まれています。日清戦争前後の歴史資料としても貴重です。第1巻に収める2冊の写真集は古写真愛好家には必見のものであり、日本の写真も含まれています。

大学コンソーシアム京都学講座
   京都地名研究会会員が担当
 2007年4月から7月にかけて、毎火曜日午前9時〜10時半、大学コンソーシアムの京都学講座を京都地名研究会の会員が担当します。
テーマは「平安京都の地名考証」で、平安京に関係の深い現存する地名の由来や語源などをリレー講義で説き明かします。
第1週 所功/第2,3週 吉田金彦/第4週 糸井通浩/第5週 綱本逸雄/第6週 真下美弥子/
第7,8週 山嵜泰正/第9、10週 明川忠夫/第11週 笹川博/第12、13週 清水弘/第14週 所功

入会歓迎!!
 総会・シンポジウムは年1回、フォーラムは年数回開催します。
 会報・通信を送り届けます。

 年会費3000円 家族会員1000
          賛助会員5000
 (なお、この4月から郵便振替払い込みの手数料が原稿の70円から100円に改定されます)

○京都地名研究会事務局


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     広報係 小泉芳孝に、お寄せ下さい。
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